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ベトナム人夫と2拠点生活。ベトナムと日本で子育て、仕事に奮闘する西田由紀さん

2016年からベトナムで働く西田由紀さん(仮名、37)は、同じ会社で出会ったベトナム人男性と結婚し、ベトナムと日本で出産し、子育てをしています。子どもたちにはベトナムと日本の2カ国をベースに育ってほしいという西田さん。ベトナム人家族との付き合いや、これからの子育て、教育について聞きました。

ベトナム初日は停電「とんでもない国に来た?」

――今、第二子妊娠中なのですね。おめでとうございます!

ありがとうございます。

――里帰り出産で日本に帰って来られてるのですね。

第一子は2021年9月にベトナムで出産したのですが、その時がちょうどコロナのロックダウン中だったんです。ベトナムは社会主義国なので、管理が厳しくて。当時は外出許可がないと外に出られませんでした。旦那が妊婦検診に付き添ってくれましたが、検問所で病院の予約表を見せないと道を通らせてもらえなかったりと大変でしたね。

――確かにベトナムはロックダウンも厳しかった記憶があります。検問所というのは道路の途中途中にあったんですか?

そうですね。道路の要所要所にあって、そのポイントを通らないと病院にも行けませんでした。当時は、日本に帰ってもホテルで2週間隔離が必要だったので、もうベトナムで出産することに。大きな問題もなく出産はできたのですが、医療が手厚くて安いのは日本だなと思い、仕事も在宅に切り替えて調整できたので、今回は日本で出産することにしました。

――第一子の出産は私立病院でされたのですか?

それも結構紆余曲折があって……。駐妻(駐在員の妻)さんたちが出産するような国際病院で最初は検診を受けていたんですけれど、入院施設があるのが本院で、わたしたちが住むホーチミン市とは違う省にあったんです。妊娠中にベトナムでロックダウンが始まり、省をまたぐ移動には、PCRの検査結果が必要だとか、検査結果があっても本当にまたげるのか分からないとか言われて……。規則が毎日毎日変わっていきました。

――アジアあるあるですね。

本当によく変わるんですよ。担当者によっても見解が違うし……。妊娠途中で、本院に行けないかもしれないという状況になりました。医療通訳サービスに申し込んでいたので、通訳さんにも状況を聞いてみたのですが、「行ってみないと分からない」と。それで、日本人女性が出産したこともあるというベトナムの私立病院を紹介してもらい、そこで出産することにしました。

――初めての出産で大変でしたね。

もう分からないけど、とりあえず「やるしかない…!」みたいな感じでしたね(笑)。

――そうだったのですね。ところで、西田さんはいつベトナムに行かれたんですか?

2016年からなので、もう少しで丸8年になります。正直言うと、最初はベトナムではなく、シンガポールやインドに行ってみたかったんです。

ただ、わたしがやりたい仕事に対して、日本人への需要があったのがベトナムでした。ちょうど今の会社が、日本でしていた仕事とリンクする仕事でもあって。だから、渡航するまではベトナムがどんな国かも分かっていませんでした。

――行ったことがないまま就職されたのですね!ベトナムの最初の印象はいかがでしたか?

ちょうど降り立った日が、街が停電してたんですよ(笑)。夜に着いて、会社の人が空港に迎えに来て歓迎会を開いてくれたんですけど。街へ行ってみたら真っ暗で……(笑)。当時は停電が今より多くて、月に1、2回ありました。

――え~ホーチミンですよね?街全体が真っ暗になるんですか?

街も大きいので全体というより、区によってですね。ちょうど会社の近くのエリアが真っ暗だったので、「とんでもない国に来たのかな……」と(笑)。

――それは怖かったですね(笑)。

ちょっと怖かったですね(笑)。会社の人と一緒だったので、「よくあることですよ」「1,2時間くらいで復旧しますよ」と教えてくれて。「まぁ、そういうものなのか」と思ってましたけど。ひとりだったらもっと怖かったと思います。

――そうですよね。西田さんが働く会社は、日系企業ですか?

20年ほど前にベトナムで日本人が立ち上げた会社です。だから日本に本社があるわけでも、駐在員がいるわけでもありません。日系企業のお客さんがメインで、飲食店やオフィスの内装のデザインや工事を請け負ってます。

――社員はどのくらいいるのですか?

最初は数人でスタートしたと聞いていますが、わたしが入社した8年前で、日本人が4人、ベトナム人120人程いました。今は、日本人7人、ベトナム人160人程です。ベトナムの経済発展とともに伸びていった会社ですね。

会話はベトナム語。分からないからいいことも

――勢いがありますね。ところで、旦那さんとはどこで出会われたんですか?

同じ会社の人です。わたしの数か月前に入社したみたいです。仕事で日本出張に行くときに、ベトナム人5人くらいと一緒に行くことがあったんです。彼とも2、3回一緒に行くことになり、コミュニケーションを取るようになりました。

――同じ会社の方なのですね。いつご結婚されたんですか?

2019年です。付き合って1年くらだったかな。同い年なので、お互い33歳の時です。ベトナムはみんな結婚が早いんですよ。親や親戚に「早く結婚しなさい」と言われるみたいで。特に女性だと30歳まで、田舎ではもっと早くて25歳くらいまでには結婚する人が多いです。旦那も「もう30歳過ぎてるんだから早く決めなさい」ってつつかれてたんだと思います(笑)。

――その頃は、もうベトナムに行って3年くらい過ぎていましたよね。ベトナムにずっと住むつもりで結婚されたのですか?

いえ、そんなことはないです。今もベトナムと日本をどっちを拠点にするか決めていません。二重拠点でもいいかなとも思ってます。ただ、旦那が英語も日本語もできないので。

――ということは西田さんがベトナム語が得意なんですか?

少しだけ。周りからは「なんであの夫婦は会話が成り立ってるんだろう?」と思われてるはずです(笑)。保険や病院などの難しい話はいまだにGoogle Translateを使っています。

――へ~おふたりの間では、恋愛や結婚する上でコミュニケーションで悩むことはなかったですか?

そんなになかったですね。なんだろう、お互い分かれば分かればでスムーズに行くこともあるでしょうけど、同じくカチンと来ることもあるじゃないですか(笑)。

――あはははっ。

「あんな言い方することないのに~」みたいな(笑)。わたしたちの会話はすごくシンプルだと思います。「あれが好き」「これが嫌い」「ああしよう」「これはしてほしくない」とか……(笑)。ニュアンスはあまりないかもしれないですけど、シンプルに伝わってると思います。

――なるほど、そこは大切なとことですね。ところで、日本人男性とアジア人女性の結婚は耳にしますが、逆はあまり聞かないですよね。

平均的にベトナム人男性の方が所得が低いからでしょうか。医者やファミリービジネスで成功しているベトナムの方と結婚した日本人女性の方もいますけど、うちの旦那は本当に普通のベトナム人です。

でもここ数年、日本で技能実習生として働くベトナム人と出会って、結婚して、ベトナムに来たという日本人女性もいますよ。ホーチミンで日本人妻の集まりとして4-5人で会ったりしています。

急速に発展していくベトナム                                                             

――そうなのですね。ちなみに当初、日本のご両親の反応はどうでしたか?

最初は少し戸惑っていましたね。

――それは、生活を心配されてでしょうか?

それもあると思いますし、両親の世代だとベトナムという国にあまり印象を持っていないみたいで。

――確かに、ご両親の世代のイメージと今のベトナムはすごく違うでしょうね。彼のご両親はどうでしたか?

歓迎してたみたいですけど、わたしに会ってもとくにふつーというか。テンションでも上がるでも下がるでもなくふつーでした(笑)。「どう思ってるのかな?」って旦那に聞いたら、「喜んでたよ」とは言ってましたけど(笑)。

――息子が結婚してくれたらそれで十分だったのかもしれませんね(笑)。結婚されてからは、ずっとベトナムにいたのですよね。子育てで苦労されたことはありますか?

子どもが生まれると、大変なこともありました。特に、義理家族との付き合い方でしょうか。旦那の田舎はちょっと保守的なんですよね。それと旦那の両親は携帯で文字入力ができず、あまり情報を調べることもできず、間違った家庭医学を信じてる人が多いんです。

――たとえば、どんなことがありますか?

日本では今、紫外線が強いので子どもの頃から日焼け止めを塗ったり、プール行くときにラッシュガードを着たりするのは普通だと思うんですよね。でも逆に、子どもの肌を強くするために日光に当てようとしたりとか。

――あぁなるほど。

あとはアレルギーの知識とか。離乳食を始める時に、卵、牛乳、小麦粉、エビ、カニなどの食材は、最初に口にするときに注意が必要じゃないですか。夜中の病院が開いていない時間帯に呼吸困難になったら大変なことになるから、平日の午前中に少しずつ様子を見ながら食べさせるとか。説明はするのですが、なかなか理解してもらえなくて。

長男が体調悪くてお姑さんにみてもらってたことがあったのですが、仕事から帰ると「はじめてエビのおかゆ食べさせてみたよ」って。「えーーっ食べさせないでって言ったじゃないですか!よりによって熱がある時に……」ということはありますね(苦笑)。

――それは確かに大変なところですね。どう対応するんですか?

諦めの部分も少しあります。でも、最低限これだけは注意してほしいということだけはちゃんと伝えるようにしています。

ベトナムと日本。2つの文化と言葉を吸収して

――共有している文化が違うからこそのトピックですね。ちなみにお子さんの言葉はどうしているのですか?

長男は、2歳半過ぎなのですが、生まれてからはほとんどベトナムで過ごしているので、第一言語はベトナム語です。今は里帰り出産で一緒に日本に来て、1カ月ほどなのですが、出てくる言葉はほとんど日本語に変わりました。

――えっ早いですね!

早いですよね。1週間前から幼稚園にも通い出したので、それもあるかもしれません。ベトナム語も忘れてるわけではないでしょうけど、旦那とテレビ電話すると、ちょっとベトナム語が喋りにくそうかな?って感じがします。

――ベトナムでは、西田さんもベトナム語で話しかけてたんですか?

わたしはできるだけ、日本語で話しかけていました。YouTubeでアンパンマンなどのアニメを日本語で見せて、日本語に触れる機会も作っていました。幼稚園はインターですけど、先生のほとんどはベトナム人なので、ベトナム語がメインにありつつ、毎日英語の授業がある環境です。

――そうすると、お子さんはトリリンガルですね!

そうなったらいいんですけどね(笑)。ベトナムに住んでいるうちはベトナム語が第一言語になると思います。第二言語が日本語。ベトナム語はアルファベット表記で、文法も英語に近いので、たぶんベトナム語ができれば、英語を勉強するのはそんなに難しくはないのかなと。なので、英語は自分で学んでくれと思っています(笑)。

――ご両親は旦那さんやお孫さんと接して、ベトナムへのイメージは変わりましたか?

具体的に聞いているわけではないですけど、変わったんだろうなとは思いますね。実家が地方の町工場が多い土地なのですが、最近べトナムや東南アジアからの技能実習生がまあまあいるんです。慣れない土地で寒い日も自転車に乗って通勤したり、郵便局でも日本語で頑張って話して母国にお金を送ったりして。そういう姿を間近で見ていると、両親も「えらいよね」とよく言っています。「田舎の人たちは誰も英語が分からないのによくやってるよね」と。

――ご両親もきっと身近に感じるようになられたのでしょうね。出産後は、またベトナムを拠点に生活される予定ですか?

まだはっきりとは決めていません。会社が日本に事務所を立ち上げるという話も出てきて、もしかしたら立ち上げメンバーとして日本勤務になったり、出張ベースで来るということもあるかもしれません。ベトナム企業だけど、日本駐在ということもあるかもしれないですね。

――生活や子育て面では、どちらの国がいいなという希望はあるんですか?

具体的な計画として決めてはないんですけど、子どもが中学生くらいになったら、子どもだけでも日本に留学させたいなという気持ちはあります。

――やっぱり両親の文化や言葉は理解してほしいという気持ちがあるんでしょうか?

そうですね。将来的に、大学はアメリカやオーストラリアに行きたいと思うかもしれないですけど、まずはベトナムと日本をベースに育ってほしいと思いますね。

――それは素敵ですね。最後に、国際結婚してよかったと思うことはありますか?

国際結婚だから、ということはあまりないかもしれないです。ただ、子どもがベトナムも日本にも触れられるというのはよかったです。

ベトナムは子どもに対して、「静かにしなさい!」とかうるさくない言わないです。子どもが好きな国民性ですし、子どもがいたずらしてもみんなにこにこしながら見守ってくれる環境があるのでいいなぁとも思いますし。その反面、緩すぎるところもあります(笑)。なので、日本でまたそれとは違ういろんな考えや文化を体験することができるのはいいことだと思っています。


							
						

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