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「『推し』に出会えていいことしかない!」タイ移住を決めた木本百合さん

「好きなことを仕事に」「好きを大切に」。いつからか、こんな言葉もよく聞かれるようになりました。一方で、「好きなことってなんだろう」「好きなことに自信がもてない」と悩んでしまう人も多いようです。ここでは、「好き」という情熱だけでタイへの移住を決めた、木本百合さん(29)の選択を紹介します。木本さんの「好き」の原動力とは一体なんでしょうか?

少女漫画のような真っすぐさに射抜かれ

関東の金融系の会社で働く木本百合さん(29)は、今年の夏の海外移住を目指して毎日準備に励んでいる。行先はそう、「推し」のいる国、タイだ――。

木本さんの推しは、タイ人俳優のJumpol Adulkittiporn(オフ)さんとAtthaphan Phunsawat(ガン)さん。タイ大手テレビ番組制作会社GMMTVが売り出す、BL(ボーイズラブ)ドラマを代表する「四天王ペア」の1組だ。2人は2016年、ドラマ「Puppy Honey」でサブカップルとして同性カップルを演じて人気に。2019年にドラマ「Theory of Love」では主演カップルを演じ、不動の人気を確立した。

もともとBLの漫画やアニメが好きだった木本さん。タイBLの魅力にハマったきっかけは、X(旧Twitter)で世界トレンド1位も記録した「2gether(トゥギャザー)」だった。知り合いにすすめられて、ドラマを見たのは2021年6月11日土曜日。「日付まで覚えてるんです(笑)」

見た瞬間、衝撃を受けた。人を好きになって、嬉しくなる。でも苦しくて、嫉妬して、すれ違って、最後には結ばれる。王道の少女漫画のようなラブコメを、なんのてらいもなく男性2人が演じている。その突き抜けた真っすぐさに、心を射抜かれた。

それから、タイのBLドラマや映画を見あさる日々。コロナ禍で仕事中のランチはひとりで食べることを推奨されていたこともあり、昼休みになるとカフェへ急ぎ、1話分を見ながらランチ。仕事が終わると家でも続きを見続けた。

そんな楽しい日々を送るなか、オフさんとガンさんに出会ってしまった。木本さんの「推し」だ。2人の組み合わせを見た途端、「好きになっちゃうのが分かってたんです」と話す。それから他の作品にはわき目もふらずに、2人だけを追いかける日々が始まった。

ところで、タイの芸能事情は少し特殊だ。ドラマなどでカップルを演じ、人気が出ると、制作会社がペアで売り出していく。オフさんとガンさんのペアにも世界中にファンがいて、国内だけでなく海外でも2人でたくさんのイベントをする。アイドルのように歌って、踊り、まるで役柄から抜け出してきたように感じさせてくれる。さらには、2人を主演カップルとして別のドラマや映画も制作されるのだ。

日々のルーティーンにアジア各国への遠征

日々の推し活のメインは、主にSNSのチェックだ。「結構毎日忙しいんです」と木本さん。

タイの人たちはSNSをよく使う。俳優も例外ではなく、オフさんとガンさんも1日4~5回インスタグラムでストーリーを更新する。投稿から24時間で消えてしまうので、まずは欠かさず保存。それから、彼らが行ったカフェやお店は、次にタイに行くときに行きたい場所として地図にマークをつける。

それに加えて、海外でのイベントにも参加する。去年は、タイのイベントには5回、韓国、フィリピン、ベトナム、カンボジアのイベントにも行った。来日イベントにももちろん参加。今年もすでに、タイに2回行っている。

「推しを好きになって、いいことしかないんです」と言い切る木本さん。推しの普段の発言は、もちろんタイ語。ファンが英語字幕をつけてくれるけれど、そのまま理解したくて、2021年からタイ語教室にも通い始めた。ひとりで海外に行ったことはなかったけれど、イベント参加のために気付けば何か国も行っていた。外国では、カタコトでも英語でコミュニケーションをとらないといけない。でもやってみたら、「努力すれば伝わるんだ」という新鮮な喜びにも出会った。

イベントに参加すれば、分かち合いたいという気持ちも生まれる。「かっこよかったよね、今の」。そう隣の人に話しかけてみる。相手から話しかけてもらえることも多くて、「わたしも自分から輪を広げる人になりたいな」と思うようにもなった。

「今を楽しんで生きる」。そのための選択は?

1~2月に1回は、リアルに推しで会える生活。それでも木本さんは、悔しく思っていることがある。実は、タイには2人に会える機会がもっとある。たとえば、ショッピングモールで高級ブランドの新店がオープンする時、イベントにゲストとして登場することも。SNSで事前告知もしてくれるから、バンコクにいれば月に2~4回は会いに行ける。そんな様子をSNSで見るたびに「行けなくてもったいないな……」という悔しさを味わっていた。その気持ちは次第に「なんで日本にいるんだろう」「タイに住んじゃえばいいじゃん」と変わっていった。

一度そう思うと、決断して行動することは木本さんにとっては難しいことではなかった。ひとつには、同じように推しのためにタイへ移住した知り合いが数人いたから。そしてもうひとつの理由は、木本さんの行動基準が「今を楽しんで生きること」だからだ。木本さんにとって「今を楽しむ」とは、「楽をしたい」とか「なまけたい」ということではなく、「今しかできないことをする」こと。

じゃあ、木本さんにとって「今しかできないこと」とは?

それは、推しに会うこと。人気がある今は、オフさんもガンさんもペアでもソロでもたくさん活動をしている。でもある日突然、ペア活動をもう見られなくなる日が来るかもしれない。それなら2人が活動してくれる今、タイに行くしかない。

「好き」だけを原動力に、どんどん世界を広げていく木本さん。最後にちょっとうらやましくなって、「好きなことが見つからないときは、どうしたらいいと思いますか?」と聞いてみた。

「うーん、好きって案外近くにあるんじゃないんでしょうか。たとえば、結婚している人には、『推し』と結婚できたの!?おめでとう!』って思いますし(笑)。見方を変えてみれば、あると思うんですよね。あとは、本当に見つからないなら手当たりしだい動いてみるしかないと思います。好きを見つけることを楽しんでみるのもいいんじゃないかな、と思います!」

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